IWATE

「お前、たしか作文得意だったよな」
夜中に突然電話してきた根元は、開口一番こう言った。
「得意っていうほどでも…」
「ばか、謙遜とかすんな、コンクールで大賞取っただろ。お前は作文得意なんだよ」
謙遜したわけでもないのにバカと言われて、僕は作文が得意だと勝手に決め付けられた。
「朝までにさ、岩手について800字くらいのコラム書いてFAXしてくれよ」
僕は言い返す隙もなかった。
根元はFAXナンバーを告げて僕に無理矢理復唱させると、一方的に電話を切った。
——と、言うのが、今僕がこの文章を書いている理由だ。僕はこれから岩手について何かしら語らねばならないらしい。しかも800字も。800字というと原稿用紙2枚分である。僕は今これをパソコンで書いているが(何故かというと、FAXナンバーを忘れてしまったから根元にメールで送るしかないのだ)、下のステータスバーに現在何文字かが表示される。
現在、半角で800字弱。この2倍を書かなくてはならない。しかも岩手についてだ。
僕は岩手に行ったことがない。
それでも書かなくちゃいけないらしいから僕は書く。
岩手といえば、恐山とイタコが有名だった気がする。それはもしかして青森だったかもしれないが、岩手ということにしておく。僕に電話をしてきた根元というヤツが、昔「イタコは全部インチキなんだぜ」と言っていた。彼にかかれば世の中の不思議なことは全部インチキなのだが、僕はこの世で一番インチキなのは根元だと思う。イタコについての知識があるんだし、根元は雑誌の編集者なんてやってるんだから自分でコラムを書けば良かったじゃないか。
少し話がそれたので元に戻すが、岩手には恐山があったとして、イタコが有名だったとする。イタコってのはたしか死人を呼んで自分に憑依させることの出来る不思議な人だったと思うが、僕だったらこの人を呼んで欲しい、と思う人がいる。
だがしかし、僕はそれをここに載せることが出来ない。ステータスバーは今1650字強。
つまり僕は根元に頼まれた800字程度を書き終えたのだ。
読者(どんな読者だかわからないが)の皆さんには申し訳ないが、僕の岩手に関するコラムはここまでです。
それではさようなら。

後日。
「下村!FAXしろって言ったのに何でFAXしなかったんだよ!」
「FAXナンバー忘れちゃったからさ。でもメールしただろ?」
「俺今出張なんだよ!メールなんか見れないだろ!」
「へぇー。そいつは悪いことしたなぁ」
「編集長に怒られて結局俺が書いたじゃないか!バカ!」

■雑誌「よいこのみんな」11月号掲載コラム「いわてけん」

いわてけん には、 おそれざん という やま が あります。
そして、この おそれざん には、 イタコ(いたこ) と いわれる、 ふしぎな ちから を もった ひとたち が います。
イタコ(いたこ) の ひとたち は、しんでしまった ひと を あのよ(しんだひと が いくところ です) から よびだして わたしたち と おはなし させてくれます。
とっても ふしぎ ですね。
きみは、この ふしぎ な おはなし を しんじるでしょうか。
じつは、ぼくは、あんまり しんじて いない のです。
そもそも ふしぎ な こと なんて このよ に ある と おもいますか?
ぼく は ふしぎ な こと なんて このよ に ない! と おもっています。
だからね、いわてけん の イタコ(いたこ) と いう ひとたち は みんな いんちき だと ぼくは おもいます。
みんなには まだ すこし むずかしい おはなし かもしれませんが、よのなかで にんげん(ぼくや、きみたち、それに おとうさん や おかあさん のことです。わん と ほえる いぬ や、 にゃー と なく ねこ とは ちがいます) ほど いんちき で うそつき な いきもの は いない とおもいます。
ぼくは きのう おともだち に おねがいごと を しました。でも、おともだち は おねがいごとを 「やってあげるよ」 と いったのに ほんとうは やってくれて いなかった の です。
ほんとうに、にんげん と いうのは いんちき な いきものです。
でも がんばれば いんちき な にんげん に ならない こと も できますよ。
みんな は、がんばって くださいね。 おしまい。