<発端の思いつき>
少年少女合唱団でボーイソプラノが見事な男の子(A男)とあんまり努力してない女の子(B子)がいて、ある日B子に初潮が訪れイヤダイヤダ男になりたいと言いながらC先生に甘える姿に軽蔑してA男は稽古に邁進していたけど、変声期が訪れて歌えなくなり退団し、B子がソロパートを任されたと聞いて自殺を図る話が読みたい
↑これが思いの外長くなった。
★登場人物★
A男…主人公っぽい
B子…主人公と同じ少年少女合唱団に入っていた
C先生…A男とB子の合唱団の指導者
D美…A男のかなり年上の妻。
E代…B子の就職先の先輩(年下)。のちにB子の恋人で仕事のパートナーとなる。
F太…A男とD美の息子。
G子…A男とD美の娘でF太の妹。
H彦…成長したA男が指導する少年少女合唱団の生徒。
<第1部 A男の話>
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少年少女合唱団でボーイソプラノが見事な男の子(A男)とあんまり努力してない女の子(B子)がいて、ある日B子に初潮が訪れイヤダイヤダ男になりたいと言いながらC先生に甘える姿に軽蔑してA男は稽古に邁進していたけど、変声期が訪れて歌えなくなり退団し、B子がソロパートを任されたと聞く。
それは合唱全体のバランスを考慮したことだったけどA男はC先生がB子に誑かされたと思い込み日に日に男になっていく自分を憎んで首を切る。一命を取り留めたものの声はますます出にくくなるし喉が弱くなるし傷痕が残ってしまう。高校生になるまで一切人と口をきかない。
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B子は自責するもののそれまでの態度を一変し努めに努め見事に歌う。歌うことをやめようとしたけれど周囲に相談し歌い続ける。先生も深く悔いるけれどそれがA男の限界だったと言い聞かせる。結果稽古は洗練されC先生率いる少年少女合唱団は全国上位に食い込むようになる。
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高校生になり、A男は遠く離れた全寮制学園に入るがそこでは1年生は必ず応援団をやらねばならず、血を吐きながら三三七拍子をうたう。血を吐いても誰も深刻にならず声が掠れても手加減をしない旧式の体制でボロボロになるけれど、それは彼がソプラノを諦める十分な理由になった
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少年時代に培った生真面目な練習態度で先輩に気に入られ、学園のトップグループに入り煙草を吸い女を誑かし後輩を殴る。立派にクソ筋肉となったA男は受験を控えたある日、テレビでかつて合唱団で一緒だったB子が名高いミュージカルの主役に抜擢されたことを知る。
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もうすっかり諦めきったつもりでいたものの胸に湧き上がる不快感に耐えられず彼は件のミュージカルを実際に見て、それが女であることへの甘えではなかったと気がつく。たとえ自分が女だとしても彼女のようになれなかっただろうと実感し、浴びるように酒を飲み受験に失敗する。
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2年の浪人生活中、入り浸っていたゲームセンターで年の離れたD美と知り合い妊娠させて結婚を決める。水道工事の営業として就職し身重の女を連れて実家に帰ると市民交響楽団でチェロを弾く兄にかつての神童が悪徳まがいの営業と残念そうに言われるが不思議と腹が立たない。
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A男の兄はもとヴァイオリン奏者を希望していてヴァイオリンよりチェロの方が人数少なそうだとチェロに変えて音大にあがる才能もなく働きながら日曜に市民楽団で続けていて、己の才覚のなさ努力不足を知りなお続けている兄の胸中を慮ることができる程度に彼は成長していた。
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結婚して女のマンションに住んでからも勤勉だけが取り柄なのだと知っていて、悪徳まがいの仕事だけど真面目に続け成績は中の上、妻と子どもを養える収入を得て、もう少し世間に認められる仕事がしたいと思い社会人大学に入り子どもが小学校に上がる頃に転職する
<第2部 B子の話>
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一方ミュージカル主役に抜擢されたB子はその後いくつかの舞台を経て大手事務所に所属を決め、虚栄心を満たしつつもいつまでも努力を続けなければいけない世界に身を置いていることを悔やむ日々が続く。もともと努力は好きではなかった。自分には才能もないと思っていた。
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初潮が始まった頃から月経困難がひどく、憂鬱に陥りやすいのも難点だった。いつでも辞めたいと思っているが、そうすると喉を切ったというA男の血姿が現れて奪ったものを安易に捨てるなと言う。かつてはそれで奮起していたが成人してから追い詰められるようになっていた。
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数回ドラマにも脇役で出たが外科手術でもしないと太刀打ちできない美少女に囲まれ、なおかつ彼女らが底知れぬ情熱と努力を傾けていることを知ると、そこが自分にとって永続的にいられる場所ではないと実感する。歌に専念しようと音大を受験し合格するが、周囲より年齢が上であることに引け目を覚える。それでも友人を作り、歌唱力をあげてゆく。
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在学中もいくつか舞台に出て評価もされるが休まることがない。男に媚びていると思われるのも血姿の少年を思い起こされて嫌で、自分より明らかに劣っている男としか関係を持つことができない。指摘を受け自分でも少女の頃の出来事に囚われすぎていると思うが逃れられない
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就職時期を前に音楽を続けるか迷って帰省した折A男がしっかり者の妻と幼い子をもって音楽と全く関係のない安定した生活をしている、声に出して笑いもすると聞く。この10年以上は何だったのかと安心と憎しみが湧いてくる。会って話せば克服できると思うが機会を逸する
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結局上を見ればキリのない音楽から足を洗う決意をし一般事務職で就職をするが、どこか周囲から浮いてしまうし、これまでの経緯から男を立てるということも出来ない。高卒入社の年下の先輩事務員E代が見かねて親切にするとB子はその行為を過剰に受け取り持て余していた熱を全て傾けるように恋する。
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男性と付き合うときのように男に媚びていると思われる心配もなければ血姿の少年に呪われることもない選択だった。くわえてこれまで付き合った格下の男と違って先輩は容姿はさほどでないが仕事はできて尊敬に値する人間だった。E代は流されるままB子と付き合い一緒に暮らし始める
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E代は、容姿も良くない資産もない頭もとりたててよくもないから早く就職して結婚しようと思っていたが、仕事の忙しさと難しくはないが正確さを求められるルーチンワークが性に合っていたのか仕事ばかりで浮いたこともなく恋することもなかったので、年上の華やかな後輩であるB子の求愛を歪に感じながら断れなかった
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E代と暮らし始めて間もなくB子は大学時代の友人に頼まれて結婚式で歌い、合唱団に入った頃以来、何にも束縛されず歌うことは楽しいと感じる。事務職を辞めてコンビニでバイトをしながら再び歌の勉強を始める。E代は田舎の親の勧める結婚を断り、恋人の変化を喜ぶ。
★登場人物復習★
A男…主人公っぽい
B子…主人公と同じ少年少女合唱団に入っていた
C先生…A男とB子の合唱団の指導者
D美…A男のかなり年上の妻。
E代…B子の就職先の先輩(年下)。のちにB子の恋人で仕事のパートナーとなる。
F太…A男とD美の息子。
G子…A男とD美の娘でF太の妹。
H彦…成長したA男が指導する少年少女合唱団の生徒。
<第3部 A男一家の離散>
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地方に機械部品製造会社の営業として経験を積んで課長職になったかつての神童は上の子どものF太が中学生になる頃地元に家を建てる。F太は音楽に興味がなく親戚にかつて父親がソプラノを担当していたと聞かされても笑い飛ばす。サッカー選手になりたいが無理だと知っている。
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下の子どもは女の子でG子といい、ずっと幼い頃から父親に媚びるような目線を向けるのでA男は愛おしいが少し苦手で、上の子のように直情的に愛することが難しい。妻のD美は彼のトラウマを知っているのでこれを機会に克服せよと言うが彼は不器用に娘を壊れやすく汚れやすいものとして扱う
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G子も敏感に父親の歪さを受け取り余計父親に固執する。若干情緒不安定気味に育ち父親に振り向いて貰うため勉強も運動も人一倍努力する。兄は妹を可哀想に思ってゲームに誘ったり女友達を連れてきて遊ばせるが妹は満たされない。父に代われない兄の虚しさは父への怒りになる。
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F太は次第に荒れてゆき父の昔の自殺騒ぎを持ち出し揶揄する。父親は応援団仕込みの恫喝でしか息子に太刀打ちできず妻を困らせる。D美はしばらく息子と娘を連れて別居をすることを決め自分の実家がある離島に引っ越す。
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妻子に見放されたのは今も昔も自分勝手だからだと周囲に噂され、彼自身そうだと思い自暴自棄な生活を送っていると、どこで耳に入れたのか、かつての少年少女合唱団のC先生から手紙が届き、自分も歳をとった、指導に歌唱力は必要ないから合唱団の指導をしてみないかという
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縋る人をなくした彼にかつて憧れた先生の手紙は涙が出るほどで、彼はC先生に会うが、本人の言う通り随分老人になっていた。C先生は彼を見て、きみの才能を伸ばす選択もフォローも出来なかったことを悔いていた、きみには音楽が歌が必要なのだと泣きA男もかつての浅はかさを悔いる
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それから仕事を終えて家に帰ると音楽の勉強を再開した。集中力は落ち耳も衰えているが持ち前の勤勉さで知識は一通り叩き込んだ。半年後にはC先生に同行し少年少女の声を学び始める。落ち着きを取り戻したと聞いたD美が娘を連れてたまに訪れるが息子は心を閉ざしたままだ。
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毎日顔を合わせていた頃よりも彼は娘を愛しやすく思ったが、当のG子は父親の関心が合唱団に向いているのを見ると自分も歌いたいと言う。しかし父親以外に学びたいと言って母親を困らせる。D美は娘に父親を傷つけたい思いがあるのを気づいているが娘の望むように教室を探す。
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娘は都会で勉強したい、田舎は父親程度が指導できるようなところだと主張し、都会で一通り遊び倒した母はそれが幻想だと知っているが、身をもって学ばないと意味がないと思い、実家に長男だけ残し住まいをうつし働きながら都会で教室を探すと一つの教室を見つける。
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それはB子がやっている教室で、音大の仲間で自宅レッスンから始めて、スタジオを3つ借りて講師たちに謝礼をきちんと出せるくらいになっていた。E代との恋愛関係は終わっていたが良いビジネスパートナーとなりE代の収支管理で健全な運営ができていた。
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B子はG子を見てA男によく似ていると思うが娘だとは思わない。G子は美しいソプラノを歌い講師の間でもレッスンのランクを上げるか議論されるが、B子は少女が歌を愛してるのではなさそうで勧められない。少女は褒められて気分が良いが電話報告しても父も兄も喜ばず甲斐がない
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F太は離島で母方の祖父母と落ち着いた暮らしをし、それが性に合っているのだが、妹を案じて教室のことを調べてゆくうち、その経営者がかつて父を追い詰めた少女だったと知る。因縁めいたものを感じるが妹に明かせば妹は更に躍起になりそうで言えず、一緒に離島で暮らそうと誘うが断られる。
<第4部 G子の話1>
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F太は案じて母にだけ気がついたことを明かす。D美はB子をお茶に誘い確認する。B子の方でも察していたので正直に明かす。D美はB子を気持ちのいい女性と思ったしB子はD美を快く感じた。次第に二人は深い友情を感じ合うようになるが二人で話すのはG子とA男のことだった。
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G子は母が先生と仲良くなったことに気がつき父だけでなく母も歌に奪われたと感じる。D美はG子の歌が素敵な友人に巡り会わせてくれたとフォローするがG子は納得いかない。遅い初潮を迎えたとき、父が自分を避けたのは自分の甘えた態度が原因であると勘付いており、やはり自分は父が忌み嫌う女という甘えた生き物なのだと絶望する
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初潮のことを母に明かせば自分が女であることが決定づけられてしまいそうで隠そうとするが、不定期に来る出血に対応しきれず暫くして知られてしまう。D美は隠そうとした娘の胸の内を思い、G子のためにしてきた全てが娘を苦しませるのだろうかと悩み、B子に相談をする。
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B子はもう遠い昔に自分がかかり解く術を知らないままにきた呪いが、今若く将来性のある少女にうつってしまったと思い、あの帰省の折に無理にでもA男に会って呪いを解くべきだったと悔やむ。今は教室運営に専念するE代に泣きつくが、少女には泣きつく胸がないと思いまた泣く
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G子は歌をサボりがちになるが事前に料金を払ってたので出たコンクールで上位になる。高名な指導者の団体へ誘われ自尊心をくすぐられ、また父の生徒がそこに選ばれなかったことに優越するが、父から祝われ自分がかなえられなかった歌の道を頑張れと言われ、父にようやく愛されたと思う
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父の分まで歌いたいと宣言し教室をうつる意向を話すと、B子はG子の意思を尊重しようと思っていたので、「ならば頑張れあなたは私と違って容姿もいいし努力家だから、容姿もひとつの才能だから、今回選ばれたくとも選ばれなかった他の人やお父さんや私のためにも無駄にしないで」と伝えて、G子はそれらに自分を讃える言葉ばかり見つけ満足していたが、夜にB子は、いずれ壁に直面した時に自分の言葉が呪いとしてG子に発動し、「選ばれたくとも選ばれなかった子のために」辞めるに辞められない状況を生むのではと気がつく。E代に相談すると、ならば教室をプロダクションにし生徒を守れるくらい大きくしようと提案される
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教室を大きく広げ、多角経営で大手とも渡り合える名前となるとG子はそれらが自分のためなのだと知り教室をうつらないまま高名な指導者の教えを享けることにする。
<第5部 G子の話2>
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同じ頃にA男は伝統ある合唱団を弱体化させた臆病者と批判されていた。彼は変声期の少年を構成から外さなかった。
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外されなかった少年たちはそれでも自分の声が出なくなってしまうことにもどかしさを覚えて自発的に辞めることが多かった。不安定な声はそのまま彼らの不安定さでしかない。A男はただ変声期の少年たちとどう接したらいいのかわからなかった。臆病者との誹りは真実だった
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娘を指導したのがかつてのあのB子だといくら何でも知っていたしC先生ともよくその話をした。A男は自らの行動がB子を宿命づけたような気で責任を覚えるが、C先生はそれらが宿命だったなら最初から全部宿命だったと言い、こうして再び顔をあわせることが出来て良かったと言う
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入退院をしC先生は亡くなるが身内よりも誰よりもA男は献身的に先生の世話をしていた。息子や娘や実の親にするよりも深い敬愛を傾けていた。彼はホモセクシャルで先生が好きだったから自殺を図ったのだと当時もあった噂がまた広がっていたがあまり気に留めなかった
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その先生の葬式でA男とB子は数十年ぶりに顔をあわせる。かつての美少年は人の良さそうなオヤジになり、ぱっとしなかった少女は年齢を感じさせない女になっている。通り一遍の挨拶を交わし昔の話を始めて互いの誤解を知り、指導者として良いライバルになろうと誓い合う。
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G子は高名な先生に指導を受け虚栄心と自尊心を満たすが、それだけで満足しようとする自分と、どこまでも貪欲に学ぼうとする周囲の差に戸惑う。チャンスを手に入れるために媚びることを厭わない少女たちを知り己がこだわってきた価値観が崩壊していく。G子はすっかり嫌になる
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その頃離島の兄が観光に来ていた風俗の娘と深い仲になり妊娠させて結婚することになったと知らせを受ける。島ではよくある話で、身よりらしい身寄りのない女性は島に嫁に来てくれると言うし、F太も精密機器工場で働いていて母を含めて島の人々には受け入れられていた
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父もそれに関するだらしなさや結婚の経緯はまるで自分と同じだと笑うがG子は笑えない。兄は酷くだらしのない男だと思い、そのだらしなさこそ生きやすさなのだとも思う。業界の人らしき男性に誘われて一夜過ごしてみるが自分が汚れたような気がするだけだった。
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G子は意に反してしかしその潔癖さが動力となるのか、世間に受け入れられてゆく。指導者対決は概ねB子の勝ちっぱなしで面白いものではなかったが、A男もB子も互いのステージの違いをよく理解しあまり本気にしてはいなかった。ただお互いの非を許しあうための詭弁だった
★登場人物復習★
A男…主人公っぽい
B子…主人公と同じ少年少女合唱団に入っていた
C先生…A男とB子の合唱団の指導者
D美…A男のかなり年上の妻。
E代…B子の就職先の先輩(年下)。のちにB子の恋人で仕事のパートナーとなる。
F太…A男とD美の息子。
G子…A男とD美の娘でF太の妹。
H彦…成長したA男が指導する少年少女合唱団の生徒。
<第6部 H彦の話>
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H彦というその少年は最初は目立たなかった。顔立ちが整ってはいるが決して賢くはない両親が、子どもに時間を取られたくなくて安価に長時間預かってくれるという理由で合唱団に入れたのだった。そうした家で育った子によくあるようにH彦は年にも容姿にも合わないくらい荒れていた。
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弱体化した合唱団はただの子守り場所だったのでA男はH彦を他の子と同じように受け入れた。しかし歌うことが彼には合っていたのか、1年もすると隣町の合唱団が引き抜こうとするほどの美しい声になった。H彦の両親は息子が金になると踏んでテレビのオーディションに応募した。
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H彦はオーディションを合唱団の練習があるからと蹴った。A男は自分の娘にも息子にも十分してやれなかったことをこの少年にせねばならないと強く思い、かつてないほどに熱を込めて指導し始めた。A男はかつての自分がH彦のように歌を渇望していたことを思い出した。
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A男にとって歌うことは自分がその存在を認めれるための方法だった。G子にとってB子にとってそうであったように。しかしA男は、それ以上に歌を愛していた。美しい歌を完成させる一員になることを誇らしくおもっていた。だからこそ醜い声しか出なくなったとき、歌に参加できなくなったとき、居場所を失った
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H彦にはそんな思いをさせてはならないと、彼はこれから少年にやってくるだろう変声期について伝えた。H彦はあまり頭が良い方ではなかったためか今ひとつ自分のことだと思わないようだった。次第にH彦は家に帰らずA男が一人で暮らす一軒家に入り浸るようになる
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A男は兄に犯罪まがいだと言われたが、H彦が家に帰ればろくな教育どころかオーディションを受けろと歌いたくない歌を歌わされると知っていた。A男はH彦が歌いたくない歌を歌うことも無理矢理にプロにしようとすることも止める責任が自分にはあると思っていた。
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H彦の両親の方でも息子が家にいなければ食費が減るのでそれはそれで良いということで取り沙汰されず、H彦はほぼ四六時中A男に歌の指導を受けることになった。H彦は自分にはそれしかないと言うように歌い、彼の指導を素直に受け止めた。A男は意志を確認しH彦をコンクールに応募した
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コンクールの一週間前にH彦が風邪を引いたと言うので喉を見ると、風邪ではなかった。ついにその時がきたのだと彼は知り、変声期と伝えるかコンクールを楽しみにしている少年に水をさすべきではないのか悩んだが伝えた。もう高音は出なくなる。無理に出せば歌えなくなる。
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少年がそれをどういう動揺で受け止めたのかわからなかったが、H彦はそれでも記念になるからコンクールには出ると言い、出場した。歌の途中で声が出なくなり勿論入賞しなかった。彼も指導を非難された。それでも少年は、もう高音は歌えなくなるかもしれないが良かったと言う
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H彦はその日の別れ際、先生の子どもになりたかった、みんななりたい家の子になれたら良いのに、とぽつりと言って家に帰った。それから1ヶ月後にH彦の両親は息子への暴行で逮捕され少年は死んでしまった。歌がうまいとみんなが言うから歌わせたらかすれた声で殆ど歌えないから、ふざけてると思ったのだと言う
<第7部 A男の話>
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G子はそこそこに売れて音楽雑誌のライターと結婚して離婚し、D美と自分が産んだ娘と3人で帰ってきたが、H彦を失って打ちひしがれる父を慰めようと思っていたのに、自分ではなく他所の子どもを追い求めた父への恨みがましさが湧き上がり、何で手放したのか彼の死は父の責任だと責める
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言葉は溢れ出したら止まらず自分が歌いたくないのに歌ったのも、つまらない男と結婚してしまったのもこうして子どもが生まれたのも全部父のせいだと言い、何で親を選べなかったのか、私は父を追い詰めたかもしれないB子の娘になりたいと言い放つと家を出て行く。
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D美はしばらく彼のそばにいたが、もとより年がだいぶ上だったのと誉められない生活態度で体を悪くし倒れる。A男は深い憂鬱に至り妻の介護も十分に出来ないのでF太がD美を迎えに来て離島に連れて行く。その島でD美は四人の孫に見守られながら死ぬ。G子は都会で歌の指導をしつつ子を育てる。
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妻の葬式に出た後A男は船で家に戻りながら、ついに家族に家族らしいことを何も出来なかったあの家に帰ることには何も意味がないのではないかと考える。帰ったらその家を売って自分は施設にでも入ろうと考え、家に帰り、その夜煙草を吸って、それが失火し火災となる。
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延焼前に鎮火したが彼には逃げようとした形跡がなく自殺ではとも言われるが定かでない。もっとも一酸化炭素を吸い込み弱った喉では助けを呼ぶことも出来なかっただろう。娘はその報せをうけいよいよ自分には帰る場所がなくなったと知る。離島も自分の居場所ではなかった。
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G子は自分の娘を育てながら、B子とそのパートナーであるE代の世話をし、女だけの家で暮している。やがてB子もE代もいなくなる時にこの大きくなりすぎたプロダクションを維持するために自分にもパートナーが必要だと思いながら、でもそれは配偶者ではないと思っている
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おしまい
(2015/10)